インターネット・リテラシーを大切に(2)

以前にインターネット・リテラシーを大切にという記事を書きましたが、最近もネットリテラシーの無さによって加害者になる、あるいは被害者になってしまう件がありました。
そのイラストレーターの件を例として、改めてネットやSNSの使用に伴う危険性などをご説明したいと思います。

事例

とあるイラストレーターさんが現在、つみを重ねに重ねて炎上している最中です。
おおよそ時系列順に箇条書きにすると以下の通り。

■他人の写真を盗用しパクリPhotoshopなどでなぞってトレス線画にする⇒色を塗ったり一部を描き加えたりレタッチする⇒自分のイラストとして発表、商品化

■元写真の権利者が「私の写真なので出典を明記してください」とお願いしたら「そんなことしたらオリジナルじゃないってガッカリされる。出典元を書くくらいならイラスト削除するから、そっちもこのやり取りを消して」と要請

■他の写真の権利者からも「それ私の写真では?」とコメントが来ると「素敵な写真なので模写しました」と、あくまでも盗んだとは言わずうやむやにして誤魔化してきた

■広告代理店と組んで、中年男性であることを隠して若い女性の身代わりをインタビューなどに出し、新進気鋭の若手女性イラストレーターとして大々的に売り出す

■SNSアイコンや、身代わりの女性の顔を隠すお面として使用している顔イラストは女優さんの写真をトレパクしたもの
(女優さんの名前や許可の有無も一切記載しておらず、炎上してからも変更していない)

■女性イラストレーターだと信じているファンに対して「素敵な女性しか描けません」「写真を送ってくれたらあなたをモデルにしたイラストを描く」「イラスト描く依頼料には学割を使えるようにしようか(これに関しては学生証の個人情報を入手するためという疑惑があります)」「たくさん送ってくれたほうがイメージしやすく採用されやすい」「(嫌がっている顔の少女の薄着のイラストを例に上げて)こういう写真を待ってます」といってTwitterで、未成年を含む女性の自撮り写真を募る

■水着のモデルさんの写真をトレパクしてイラストにし、本人の許可無く画集に収録

■他者が権利を持つ写真をトレパクして描いていると指摘する声が大きくなってからは「引用・オマージュ・再構築として制作した。写真そのものをトレースしたことはなく、模写についても盗用の意図は無く、企業から依頼されて描いたイラストは全てオリジナルです」という声明を出す

■ネット上で検証している方々によって元になった写真が大量に判明している(現時点で100枚以上)。企業依頼で広告や商品に使用されているイラストでも多数のトレパクが見つかる

■元になる写真がどうしても見つからない作品については、女児の水着や下着姿のイラストが多く、Twitterでの募集に乗せられて写真を送ってしまった一般人がモデルではないかという疑惑がある

■アマナイメージズという日本でもトップレベルに著名な写真素材販売サイトから、有名な写真家さんの写真を複数トレパクしている

■他者の権利を侵害している自覚を持ちながら、今もイラストや関連商品を売り続けている
(一部の販売企業は販売中止にする、もしくは返品やキャンセルを受け付けています)

■既に写真盗用の件が伝わっている外国でも展覧会を開き続けて、日本のイラストレーター全体の価値を貶めている

 
 
並べれば並べるほどに酷いですね。まだ他にも知らない罪状がありそうな気がします。
こんな人をメディアは良く人気イラストレーターとして担ぎ上げたものだなと、悪い意味で感心してしまいます。
最近リアル寄りの女性のイラストを使った装丁やグッズが増えているので「もう若くないせいか絵師の個性が読み取れないし区別がつかないな」と自分の感性の老いについて考えていたのですが、このイラストレーターに関しては個性も何も、盗作だったせいで一貫した絵柄が無かったと判明してちょっと安心しました。

それではこの件を例に、私達がネット上でやってはいけないこと、気をつけたいことなどを順にご説明していきます。

トレスとトレパクの違い

このイラストレーターのように、トレス(上からなぞる)して他人の絵や写真やデザインをパクる(盗む)行為が、俗に『トレパク』と呼ばれています。

勘違いされる方が多いのですが、以下のようにトレスや模写を個人利用の範囲で行うのであれば問題ありません。
「この漫画家さんの手の描き方は凄いなあ…自分の画力アップの練習に、上に薄紙置いてなぞってトレスしてみよう」
「素敵な写真だなあ…こういう構図でイラストを描いてみたい。自分の考えた人物と背景で、ポーズと余白の感じだけ参考に模写しよう」

もしくは、写真をトレスした作品を制作・販売するのであれば、最初から自分で被写体を用意して写真を撮影するか、プロのカメラマンやモデルにきちんと依頼して写真を用意してもらうかですね。

当然、元になった画像の著作権や肖像権といった権利は作成者、撮影者、モデル、管理会社にあります
無断で過度に似せたものを商用に利用すれば、著作権侵害や肖像権侵害といった法律違反となります。
もしどうしても他者が権利を持つ画像やアイデアを利用した作品を制作公表したり、商品として売ったりしたいのであれば、まずは権利者に確認を取って許可をもらい、使用料を払うなどの契約が必要です。

今回の件のように、こうした当然の手順を踏まず、勝手に画像を丸ごとなぞって色を足しただけで自分のオリジナルとして作品を制作発表、あるいは商用利用するのがトレパクです。
カメラマンとモデルの研鑽と努力と才能、考え抜いた構図、労力と費用をかけて撮影した枚数から選び抜いた1枚。
そんな諸々を丸ごと盗んで、描画ソフトで線を抽出して色を塗るだけですから、作品制作時間も短く、今回のイラストレーターが「仕事が早い」と重宝された理由が分かります。

ネット上のものは基本的に自分以外の誰かのもの

インターネットを誰でも気軽に使えるようになった現代において、ごく一部の方は
『ネット上にあるものはフリー素材』
『自分が見つけてスマホやPCに保存した時点で自分の物』
『勝手に使ってもどうせバレない』
『バレたとしても知らないと言い張れば逃げられる』
という勘違いをして画像や文章の盗用をしてしまうようです。

この勘違いをしたまま大人になってお仕事をしていると、今回の件のように大変な事態を招くことになるので、親御さんや学校の先生はネットの使い方としてこのあたりもお子さんにきちんと教えてあげてくださいね。
このように多数の盗用が判明した場合、画像の権利者・商品を販売中止する羽目になった企業・イメージを損なった企業、すべての関係各所から賠償請求や違約金の請求が来てその金額が莫大になることが予想されます。
この件を、一時の欲に任せて、あるいは楽をしようとして、人としての良心や誠意を疎かにすると大変なことになるという反面教師にしてください。

SNSと承認欲求

SNSで自分の投稿に『いいね』を押されて反応をもらうと嬉しいですよね。
しかしそれを求めすぎると、最初は1つ2つの『いいね』で満足できていたものが、その内にもっとたくさんの評価が欲しくなります。
それが『承認欲求』。
自分に価値があると自分自身が信じたい、他人にもそれを認められたいという、誰もが持ちうる心の動きです。

もっと『いいね』が欲しくて、承認欲求を満たしたくて、気づけば投稿する内容が実際の自分や、世間の常識からかけ離れたものになることも。
以下はTwitterなどで良く見かける一例です。

・現実では使わないような、大げさな、あるいは攻撃的な言葉遣いになる
・自分自身で考えることをやめ、バズった意見に同調、あるいは正反対の極端な意見を語る
・グッズやガチャに大金を使い、写真を上げて過度な自慢をする
・他人の投稿を盗み、自分の投稿として上げる
・嘘のエピソードを語り、人の興味や同情をひく

これらが度を超すと、件のイラストレーターのように嘘が明らかになった時にはとんでもない代償を支払うことになります。

承認欲求を持つこと自体は悪いことではありません。
その欲求が作品作りの意欲になり、画力向上の努力や創意工夫に向くなら良いのです。
しかしそうならずに楽な方を選ぶと、犯罪に走ってしまう例もあると覚えていてください。

SNSやブログで有名人や他人の投稿の写真・動画を切り取って自分の投稿として上げている人も多いですが、それも本当は権利侵害でアウトな行為です。
ただ単にいちいち訴えるのも大変だからと相手が見逃してくれているだけです。
悪質と判断されれば普通に訴えられて負けるので、そのあたりも注意してSNSを使ってくださいね。

また、今回の件の場合、イラストレーターの主なファン層が若い男女です。
(若い方に人気のアーティストのジャケ写に起用するなど、その年齢層に向けて売り込んでいたので)
自分と変わらない年齢の女性だと純粋に尊敬して応援していたイラストレーターが実は中年男性で、しかも作品もほぼ盗作だったとなれば、ただファンだっただけでも「騙された自分が恥ずかしい」、「グッズを持っているのすら嫌だ」と傷ついている学生さんも多いのではないかと思います。
そうして傷つき落ち込んでいる人は、詐欺に遭ったも同然の被害者です。
そんな人をからかったり、更に傷つけるようなコメントを送るのはやめてあげてください。
軽い気持ちで送れてしまうSNSコメントも、度が過ぎれば自分自身が人を傷つける加害者になるということを、常に頭の片隅に置いておいてください。

規約を良く読む

素材サイトに出されているフリー(無料)素材であっても、制作者さんによって『使用の際は出典元、権利者を明記すること』『個人利用のみ可、再配布や商用利用は不可』『商用利用の際はメールで相談を』といった使用規約が記載されている素材がほとんどです。

例えば下の画像の背景は、海外のイラストレーターさんが公開してくれているテクスチャ画像なのですが、出典を明記しさえすれば自由に使っていいよという規約にしてくれています。
テクスチャ例
この画像にはmercurycode様が制作されたテクスチャ『Blue Grunge』を使用させて頂いております。

件のイラストレーターは、この出典を明記するという規約を無視してアイコンイラストに使用している規約違反の状態です。
元になった女優さんの顔写真も無断使用だというのに、いくつ罪を重ねていくのか…。

お子さんの個人情報を守る

このイラストレーターは、広告代理店やメディアがグルになり、テレビや雑誌などでは若い女性を身代わりとして表に立たせ、またTwitter上でも女性のような口調で投稿を行い、メディアのインタビュー記事でも『彼女の画風は~』というように表記されていたため、公式プロフィール上は『年齢・性別は非公開』ではあるものの、多くの人が若い女性だと思っていました。
(若い女性にしては不自然な口調や趣味嗜好も、芸術家らしい変わり者なのか、それともそういうキャラクター付けかも、と思われていました)

相手が企業ぐるみで騙そうとしてきている状況で、かつ善良な一般人であればそんな手口で消費者を騙す企業が居るとは想像しようも無いので、騙されてしまっても仕方ない部分もあります。
かといって『会ったこともない他人に、TwitterのDMやメールで自分や子供の写真を送る』というのは絶対にやってはいけない事です。
相手が女性だから、というのは全く信用する理由にはなりません。女子トイレや更衣室に盗撮カメラを仕掛けた犯人が金銭目的の女性だったという事例も多々あるのです。
相手がテレビにも出ている有名な人だから、というのも同じです。有名人が犯罪を犯さないという保証はどこにもありません。

以前のインターネット・リテラシーを大切にの記事でも、ネットに写真をアップする危険性について「子供の可愛い場面を見てほしい!というお気持ちは分かるのですが、自分の情報を自分で守れない小さなお子さんを守ってあげられるのは親御さんだけです」と書きましたが、今回も同じです。

「有名なイラストレーターに子供を描いてもらえたら良い思い出になる」という純粋な親心からの行動だったとしても、相手が今回のように悪意ある存在だった場合には、親御さんが我が子を犯罪の被害者にしてしまうのです。
このイラストレーターに既に写真を送ってしまった親御さんの中には「洋服着てる普通の写真だし、そこまで深刻なことじゃない」と思っている方もいらっしゃるかもしれないのですが、お子さんの顔と、他の女児の下着姿を切り貼りしたイラストを作られていたらどうでしょう。
このイラストレーターは、複数の写真を切り貼りしてトレパクしている作品もあるので(女性の上半身+別の女性の下半身+背景+小物など)そうした被害が発生しないとも限りません。
そのイラストが商品として流通したら、そしてお子さんがそれを知ってしまったら、大変な心の傷が残ります。
お子さんの個人情報や写真は出来る限りネットに上げない、ましてや見知らぬ相手に絶対に渡したりしないようにしてください。

もし写真を送ってしまったら

もしも未成年の女性が、自分で「是非描いてほしい」と写真を送ってしまった場合。
本当に言い出しにくいとは思うのですが、まず保護者に相談してください。
(怒られるかもしれませんが、それはあなたを心配して、今後こんな被害に遭わないようにという愛情だと思うので、甘んじて叱られてください)

保護者にいきなり直接は言いづらい、あるいは保護者に伝えても保護責任を果たさずまともに対応してくれない場合は、学校の先生や警察に相談してください。
デリケートな問題でもあるだけに、警察や弁護士はきちんと被害者の情報を秘匿して公表しません。
被害者であるあなたの名前が公表されることは無いので、保護者同伴で、あるいは一人でも、安心して各所に相談してください。
ネットでしか知らない相手に相談したり、経緯をTwitterで呟いたりするのはダメですよ。
どういう風に個人の情報が漏れるか分からないので、自分で自分の身元に繋がるような情報をネットに書いていては、せっかく警察や弁護士が情報を伏せていても意味が無くなってしまいます。

警察にいきなり行くのは怖い、親御さんもまずどうしたらいいか分からない、という場合は、警察相談専用電話 #9110 に電話してください。
今すぐ警察に駆けつけてもらう110番ほどの緊急性は無い犯罪被害に関して警察に相談できる電話番号です。

【警察に対する相談は警察相談専用電話 #9110へ】
犯罪や事故の発生には至ってないけれど、ストーカーやDV・悪質商法など警察に相談したいことがあるときには、警察相談専用電話#9110をご利用ください。全国どこからでも、電話をかけた地域を管轄する警察本部などの相談窓口につながります。

自分の写真を盗用したイラストが無許可で販売されたり、児童の写真を収集するサイトに写真を貼られてしまったりといった二次被害が出る前に、相手が保存しているデータを消去してもらって安心したほうが、自分の将来のためにも良いはずです。
とはいえ、一番に大切なのは被害者である本人の気持ちです
もしも当事者であるお子さんが「おおごとになるのはどうしても嫌」「警察にあれこれ聞かれるのもつらい」「万が一に相手から逆恨みされたら怖い」「このまま無かった事にして忘れたい」と言うのであれば、親御さんには出来るだけその気持ちを尊重して頂いて、長期的・精神的なケアを優先する道もあるかと思います。

タイトルとURLをコピーしました