リチウムイオン電池開発によるノーベル科学賞の受賞

2012年、『 様々な細胞に成長できる能力を持つiPS細胞の作製 』としてノーベル生理学・医学賞をジョン・ガードン氏と共同受賞された山中伸弥博士。
2014年、『 高輝度で省電力の白色光源を可能にした青色発光ダイオードの発明 』によりノーベル物理学賞を受賞された赤崎博士、天野博士、中村博士。
2018年、『 免疫チェックポイント阻害因子の発見とがん治療への応用 』を成したことでノーベル医学生理学賞を受賞された本庶佑博士。
そうした近年で皆さんの記憶にも印象深く残っているであろう方々はもちろん、他にも素晴らしい日本人受賞者の方々に続き、今回はM.Stanley Whittingham(マイケル・スタンリー・ウィッティンガム)氏、John Goodenough氏(ジョン・グッドイナフ)氏と共に吉野彰(よしの あきら)博士が『 リチウムイオン二次電池の開発 』という功績によってノーベル化学賞を授与されました。


本当におめでとうございます!
吉野博士は大阪大学博士でもあり、旭化成の名誉フェロー(フェローとは、最高位のエンジニア・特別顧問みたいな感じ)も務めている研究者さんです。

パソコン修理業者として常々リチウムバッテリーに触れているので、こうして身近なものとしてリチウムバッテリーを広く再認識して頂けるきっかけにもなる今回の吉野博士の受賞はすごく嬉しいです。
せっかくなのでこの機会に改めてリチウムバッテリーの取り扱いについて、そしてノーベル賞の由来や授賞式の注目ポイントまでお知らせしてみたいと思います。


 目次 

リチウムバッテリーとは
リチウムバッテリーの劣化と起動不具合
取り扱い時の注意点
  ∟宅配でノートパソコンを送る際には
ノーベル賞の設立
  ∟お土産はやっぱりメダルチョコ?
  ∟ノーベル博物館
  ∟ストックホルム市庁舎


リチウムバッテリーとは

コンセントからの電源コードを繋いでいない状態で動く機器、つまりスマホやiPadやノートパソコン、そしてデジカメやドローン等には、動力電源となる充電池が内蔵されています。
この充電池であるリチウムイオン電池(リチウムバッテリー)のおかげで今の私達の生活に欠かせない機器は持ち運びが簡単なサイズになり、充電しなくても数時間は使えているのです。

ノートパソコンだと大体が底面に内蔵されています。
ロック(ツメ)部分を外して取り外しができる機種と、完全に内蔵されていて本体を分解しないと外せない機種とがあります。
スマホも背面カバーをカパッと外すとバッテリーがあります。

ノートパソコンから取り外した状態がこちら。
リチウムイオン電池バッテリー
リチウムイオン電池であることを示す【 Li-ion 】という表記があります。
リチウムイオン電池


リチウムバッテリーの劣化と起動不具合

ノートパソコンに装着されているバッテリーが経年劣化や物理的な破損で傷んでしまうと、
・充電が正常にできない(充電ランプが点灯しない)
・100%まで充電してもすぐに空っぽになってしまう
・そもそもノートパソコン自体が上手く起動できない
といった不具合が起こります。

購入から年数の経過したノートパソコンが起動しなくなった時は、試しにバッテリーを取り外し、ACアダプター(電源コード)のみで起動させてみてください。もしACアダプターだけなら正常に起動するのであれば、バッテリーの劣化によって電圧が正常に流れずに起動を妨げている可能性があります。


取り扱い時の注意点

リチウムイオン電池は小型・軽量でもエネルギー密度が高く、そして環境負荷が低い(めっちゃエコ)という、これまでの充電池には無かった大きな利点があり、ニッケル水素電池などに取って代わってノートパソコン等のバッテリーの主流となりました。しかしこのエネルギー密度が高いという利点は、極端な高温、あるいは低温環境での使用などで内部の電解液等が変質して最悪の場合は膨張・破裂・発煙・発火するという危険性と隣合わせでした。そのため出来る限りバッテリーとパソコンの開発メーカーは幾重にも安全対策を行い、安全にバッテリーとしてリチウムイオン電池が使用できるように本体設計を行ってくれています。

それでもメーカー側の想定を超えた使用方法(高温環境下での保管や連続稼働、経年劣化による膨張の放置、物理的な圧迫)や製造過程での不良品発生(日本では滅多に無いことなので、モバイルバッテリーを買う時は出来るだけ日本製のちゃんとしたメーカーのを買ってくださいね)などにより、どうしてもそうした事故が発生してしまうことがあります。
また、破裂や発火といったエライ事にならずとも、電池内部の状態が悪くなれば当然 電池の持ちが悪くなりますから、部品を長持ちさせるためにも、起動させていない時でも出来る限り涼しい場所に置いて保管してください。特に夏場は、ノートパソコンやタブレットを車の中や窓際に置いたままお出かけしないようにご注意下さい。

万が一にもお家や車の中で発火したら大変なので「なんか最近やたら熱を持ってるし、妙に膨らんできたな…」と気づいたらすぐにバッテリーを取り外し、適切な方法で廃棄してください。廃棄できるゴミの日まで何日かとりあえず置いておく場合は、発火した際に備えて、海苔やお菓子の空き缶(よくご家庭で裁縫道具や小物入れになっているあの長方形のやつ)などに入れて保管してください。
新しいバッテリーが必要な場合は、PCメーカーさんやPC修理業者から購入することもできます。機種によってバッテリーのお値段も様々ですが、お安いもので数千円、Macなどのお高いので2万円弱くらい。

本体を分解しないとバッテリーが取り外せない機種の場合は(AppleのMacBookシリーズや、最近増えてきた薄型軽量のUltrabookと呼ばれる機種)外からバッテリーの状態を見ることができないため、かなり電池が膨らみ、キーボードを押し上げ、周りの部品を壊してPCが動かなくなり、という破裂寸前の段階になってから異常に気づくユーザーさんも居ます。
その場合も、異常に気づいたらすぐにお近くのパソコン修理業者などにご相談いただき、速やかにバッテリーを取り外して廃棄するようにしてください。
もしご近所の業者さんがAppleやUltrabookの分解はムリ!ということでしたら弊社でも宅配ご依頼や持ち込みご依頼による分解交換を承っておりますので、お早めにご相談いただけたらと思います。
 icon-envelope お問い合わせメールフォーム
 icon-phone-square 電話番号 087-813-0481
 icon-lightbulb-o 営業時間 9時~17時

宅配でノートパソコンを送る際には

上でご説明したようなリチウムイオン電池の発熱や発火が航空機内で発生すれば墜落などの重大事故を引き起こす可能性があります。
それを防ぐために、特に北海道や沖縄への配送であればリチウム電池を含む荷物を運ぶ場合は航空便ではなく陸送や船便による配送に限ると法律で決まっています
そのため、皆さんもノートパソコンを宅配で送る時にはきちんと『 リチウムイオン電池あり 』と伝票や箱に大きく記載してから発送してください。
また、受け取る相手側には「 決まりで陸上輸送になって、普通の配送よりも日数がかかるよー 」とあらかじめ伝えてあげると良いでしょう。

「 なんかバッテリーが入ってると配送に日数が掛かるっていうからワザと品名に 『 工具。リチウム電池無し・コンプレッサー無し 』 って嘘を書いて出そう 」というような事は絶対におやめください
荷物積み込み前の検査で引っかかるので、そのまま飛行機に乗ることはまず無いとは思いますが、もし万が一に検査をすり抜けてしまい、上空で発火しようものなら大変なことになります。

ノーベル賞の設立

青色発光ダイオード(LED)開発によるノーベル物理学賞の受賞の記事でもご紹介しましたが、ノーベル賞とは『人類にとって、この上なく幸福を与える助けとなった』人物へと与えられる賞です。
ダイナマイトの開発で巨万の富を築いたアルフレッド・ノーベルの遺言に従って、彼の莫大な遺産を基にノーベル財団が設立・運営されています。

ダイナマイトを始めとする『 爆薬(ニトログリセリン)の安全な取り扱いと効率的な起爆 』を見出したノーベルさんは「 これでこのスウェーデンの固い地盤でも安全に効率的に土木工事を進められる! 」と、人の役に立つものだと思っての開発だったようです。
しかし皆さんご存知のとおり、残念ながらその発見は主に兵器として利用されるようになります。

弟がニトログリセリンの取り扱いに失敗した事故で亡くなった時、安全に爆薬を扱うためだった取り扱い方法が効率的な攻撃手段として使われた時、それが戦争で多くの人命を奪い続けた時、武器の商いで財を成し『死の商人』と呼ばれた時、晩年に狭心症を患って特効薬としてニトログリセリンの錠剤を服用していた時。
その時々にノーベルさんは一体どんな気持ちだったのでしょうか。

死の間際、子供の居なかったノーベルさんは、自分の研究アシスタントだったラグナル・ソールマン(Ragnar Sohlman)とルドルフ・リリェクイスト(Rudolf Lilljequist)を遺言執行者として指名しました。
二人の科学者はその遺志に応えるべく、ノーベルさんの親戚による不服申し立て(莫大な遺産を丸ごと貰う気満々だったんでしょうね)に散々邪魔され、とてつもない苦労をしながらも、何年もかけてノーベル財団設立委員会を結成し、賞設立の準備を行いました。
ちなみに現在はラグナルさんのお孫さんであるマイケルさんや、ノーベルさんの親戚の子孫の方が財団の理事を務められています。

お土産はやっぱりメダルチョコ?

ノーベル賞の受賞者や関係者、来賓や観光客、皆さんが揃って買い求めるものはやはり受賞メダル型のチョコレートのようです。
お手ごろ価格(10個入り約1,000円)で、小分けにして配りやすく、尚且つ「 ノーベル賞授賞式のおみやげだよー! 」というのが伝わりやすいですし、貰ったほうも凄く嬉しいお土産ですね。私もスウェーデンに行くことがあれば絶対にお土産はこれだ!と思っています。

本物の受賞メダルは、賞によって多少デザインに違いがあるらしいのですが基本的に表面にはノーベルさんの横顔の肖像が描かれており、裏面は物理学賞と化学賞だと『 自然の女神のベールを科学の女神がそっと外して横顔を覗いている 』という意匠になっています。
メダルチョコのデザインは、ノーベルさんの横顔を描いたもの(ノーベル博物館で販売)と、晩餐会の会場であるストックホルム市庁舎を描いたもの(市庁舎で販売)の2種類があります。

ノーベル博物館

スウェーデンの首都ストックホルムの旧市街地ガムラスタンにノーベル博物館があります。
2001年にノーベル賞100周年を記念して建設されました。
公式ホームページには大変ありがたいことに日本語ページがあります。
ノーベル博物館 ショップコーナーではメダルチョコはもちろん、晩餐会に使用されているものと同じ食器が販売されています。

カフェコーナー『 ビストロ ノーベル 』では晩餐会でデザートとして出されるアイスクリームパフェと同じものが食べられるのだとか。
そして椅子の裏にはこっそり歴代受賞者の方々のサインが。もしもここを訪れる機会があったら忘れずに椅子の裏をご覧ください。

ストックホルム市庁舎

湖に面して立てられた重厚なレンガ造りの歴史ある建物で、その建築技術や装飾が高く評価され観光名所にもなっています。
早稲田大学の早稲田キャンパスにある大隈講堂も建築デザインにこの市庁舎の影響を受けたと言われています。

そんな市庁舎の“ 青の間 ”で、ノーベルさんの命日である12月10日に開かれるのがノーベル賞の受賞者たちを祝うための晩餐会です。
晩餐会は国王陛下や王室の方々をはじめ、受賞者やその家族、関係者、その他抽選で選ばれた学生や国民など、1300人もの人達が参加する大宴会です。
ちなみに晩餐会の後は同じく市庁舎内の“ 黄金の間 ”で舞踏会兼パーティーが開かれます。

スウェーデンの国旗は濃い水色に黄金の十字架という意匠です。
“ 青の間 ”(設計段階では壁も天井も青くする予定だったけれど、晩餐会が12月の寒い時期なのに寒々しい青はどうかなーと思い直したのでほぼ青くない。かろうじて青灰色の大理石が床に敷き詰められている)と、壁面を豪奢な金箔と壁画で埋めた“ 黄金の間 ”。
どちらもスウェーデンの伝統と誇りを表現した空間ですから、そんな場所に招いてお祝いの宴会をしてくれるなんて、これ以上ないおもてなしですよね。

ちなみに“ 青の間 ”の大階段は幅広で、段の高さはとても低く造られており、女性がイブニングドレス(裾の長い優雅なアレですね)でも降りやすいよう、また所作が美しく見えるようにという気遣いの賜物。
そして大階段の向かい、赤レンガで組み上げられた壁には一箇所、階段を降りる際に視線をふらつかせずに凛と降りてこられるように目線を固定するための星のレリーフ(アスタリスク*みたいな形のやつ)が彫られています。
いくら段差の低い階段で片腕をパートナーの男性に預けていると言っても、視線を壁のレリーフに合わせて逸らさず、足元も見ずに優雅に微笑みながら長いドレスの裾をさばいて階段を降りるとか私には絶対に無理です。
昔の貴族の女性や、現代の招待客の女性の皆さんも大変だ…と、ドレスの貴婦人の苦労をしのんで、メディアで晩餐会の様子が放映されたら毎回星マークを探しています。
皆さんも今年の12月10日に覚えていらしたら是非、星のレリーフを探してみてくださいね。

タイトルとURLをコピーしました